水中遺跡の定義 - 荒木伸介

「水中考古学」という名称がいつから使用されるようになったか確証はないが、今日では一般的に認知され定着している。しかし「水中」という言葉は必ずしも適当なものとは思われない。遺跡や遺物は水中に浮遊して存在するものではなく、水底あるいは水底下に埋没しているからである。したがって「水底考古学」の方が正確な表現である。しかし「水底」と「推定」とは語音が同じであり誤解を招く恐れがある。英文では“Underwater Archaeology”が広く用いられ、水深がとくに深い場合には“Deepwater Archaeology”が使われたり、「海底考古学」の場合は“Marine Archaeology”や“Maritime Archaeology”などが使用されている。しかしこれでは、遺跡の場所によって「湖沼考古学」や「河川考古学」などのように使い分けなければならず煩雑である。陸上と区別する上では「水中考古学」以外に適当な名称は存在しないようである。

では、水中考古学の対象となる場所は、陸上の考古学の場とどのように分けられるのか。とくに水深が深い場所では問題とならないが、水深が浅く時々に陸化するような場所はどちらの領域に属するのか不明瞭になる。一般的に、水中において調査を実施する場合は、潜水用器材を必要とする。今日、このような器材はかなり進歩改良され、安全な潜水を可能としている。しかし、潜水しなければ到達できない遺跡のみが水中遺跡とは限らない。潜水を必要としない浅い遺跡もある。こうした場所では、堤防や矢板などで調査範囲を囲み、内部の水を排出し、一時的に陸化させて発掘調査を実施している。いわゆる「ドライ・ドック方式」である。

ここでは、水中考古学の対象となる「水中遺跡」とは、水面から遺跡までの水深に関係なく「常時水面下にある遺跡」と定義することとする。