おわりに

ここでは世界をいくつかの地域に分け、1980年代にそれぞれの地域で行われてきた水中遺跡の調査活動の概略を述べてきた。そこでは水中考古学が市民権を得るべく、独立した学問としての急速な発展を遂げた確かな足跡をたどる事ができた。また水中という未知の世界に文化遺産が存在し、研究の対象となることがでさることを水中考古学が社会に教え、与えた影響は大きい。遺跡の発見に対して、これまで通り地道に情報を収集することが不可欠であることに全く変わりはないが、先端科学の積極的な採用もこの10年間の結果である。コンピューターを使用し、遺構・遺物のデータ化による遺跡から出る多量の資料を分析・整理ファイルすることが可能になった。

今回の報告では、1980年代の水中遺跡調査の実態を知るべく全地域から遺跡を収集し、各遺跡の性格を説明する努力をしたが、資料や時間の制約のため多くの点で遺跡、地域の発掘状況を十分に把握することがでさなかった。このような条件下で、統計的なデータには誤差が大さく生じることとなり、データとして満足のいかない結果となった。地域的なデータの偏りもみられることから全体の傾向や性格を読むことには不備が残ってしまった。この点を十分に反省し、再び別の機会に全遺跡に対して集成を試みたい。1980年代の科学的及び社会的な活動として、水中考古学のなしえた成果が、この学問の学史的な中でどのような評価を受けるのか。さらに、1990年代の水中考古学にその財産として、何を受け渡したのか。世界の水中遺跡調査活動と日本の水中遺跡調査活動を比較した時に、解決しなければならない問題点は何か。それらの答えがわずかでも今後の日本の水中遺跡調査に携わろうとする人々の励みになることを望んでやまない。

参考文献

  1. American Journal of Archaeology (AJA) (Volumes 85-95 (l981-91), the Archaeological Institute of America, Boston)
  2. Antiquity (Volumes 55-65 (1981-91), Antiquity Publications at Oxford University, Oxford)
  3. Archaeology (Volumes 34-44 (1981-91), the Archaeological Institute of America, New York)
  4. The International Journal of Nautical Archaeology and Underwater Exploration (Volumes 10-20 (1981-91), Academic Press, London)
  5. INA Newsletter. (Volumes 10-18 (l981-9l), the Institute of Nautical Archaeology, College Station, Texas)
  6. The Journal of Field Archaeology (Volumes 8-l8 (1981-91), Boston University, Boston)
  7. KOSUWA Newsletter (volume 1:2 (1991),九州・沖縄水中考古学協会、福岡)
  8. National Geographic (Volumes 166-76 (1981191), National Geographic Society, Washington)
  9. Kemp, Peter, The Oxford Companion to Ships and the Sea (Oxford University Press, 1988, Rep. Ed.)