南西諸島

鹿児島・沖縄各県域の水中文化遺産調査については、鹿児島県域では鹿児島大学法文学部異文化交流論研究室(代表:渡辺芳郎)、沖縄県域では南西諸島水中文化遺産研究会(会長:宮城弘樹)がそれぞれ共同研究機関となり、2009 年度より調査を開始した。

  • アンケート調査(2009 年7月10 日~8月10 日)
  • 奄美大島調査(2009 年8月3日~9日)
  • 徳之島調査(2009 年11 月13 日~17 日、2009 年11 月13 日~15 日)
  • 沖縄県の調査

アンケート調査

海岸への漂着遺物の有無などをたずねるアンケート調査を実施した(2009 年7月10 日~8月10 日)。発送先は、鹿児島県内の市町村教育委員会と、鹿児島・沖縄県内の漁協・ダイビングショップ(DS)である。返信の中にはのちの海岸踏査・潜水調査において有益な情報も含まれていた。

奄美大島調査

2009 年8月3日~9日にかけて、鹿児島大学法文学部異文化交流論研究室(代表:渡辺芳郎)は、奄美大島の海岸踏査、聞き取り調査、碇石調査を行った。

  1. 海岸踏査
    海岸部における漂着物の有無を確認することで、沈船等の水中遺跡の候補地を探すことを目的として実施した。
  2. 聞き取り調査
    聞き取り調査により、2件の情報を得た。
  3. 碇石調査
    8件の碇石を実見、計測した。

徳之島調査

鹿児島大学(2009 年11 月13 日~17 日)、南西諸島水中文化遺産研究会(2009 年11 月13 日~15 日)は、徳之島の事前調査(文献調査・アンケート調査)、海岸踏査、聞き取り調査、潜水調査を行った。

  1. 事前調査(文献調査・アンケート調査)
    現地調査に先行して、文献調査とアンケート調査を実施した。
    文献調査は、徳之島の市町村誌等を精査し、過去の海難事故等に関する記事を抽出し、記事が多く見られる海岸を中心に踏査地点を設定した。今回調査した文献は、『徳之島小史』(1917 年)、『徳之島町誌』(1970 年)、『天城町誌』(1978 年)、『伊仙町誌』(1978 年) である。
    アンケート調査は、徳之島の教育委員会・漁協・ダイビングショップなどに漂着遺物等の有無を尋ねるもので、その結果、ダイビングショップのオーナーから、後述するような有益な情報が得られ、潜水調査を実施した。
  2. 海岸踏査
    今回の調査では、13 ヶ所の海岸を踏査し、遺物を採集したが、中世から近現代までの幅広い時代の陶磁器を含んでいる。それらがすべて海底に由来する、いわゆる「海揚がり」かどうかは判断が難しい。各海岸周辺地域の歴史的環境などと重ね合わせて考える必要があろう。
  3. 聞き取り調査
    地元のダイバーの方からの聞き取り調査の結果、以下の3地点で水中文化遺産が存在する情報を得た。
  4. 潜水調査
    山港は周辺で遺跡こそ確認されていないものの、文献によって古くからの港町であったことがわかっている。また、船舶の漂着記録も残る。海底からは、地元ダイバーによって沖縄産・本土産等の近世・近代陶磁器や用途不明の石製品が表採されていた。また、鹿児島大学による海岸踏査によって、中世〜近現代にかけての陶磁器が表採された。以上のことから、本海域の海底調査は海底や陸上で表採された遺物に関連する遺跡が確認される可能性が高かった。

沖縄県の調査

南西諸島の沖縄県域を中心とする地域については、2009 年5 月1 日に南西諸島水中文化遺産研究会(会長:宮城弘樹)を設立し、南西諸島の水中文化遺産のデータベースを作成するにあたり、効率的にかつ網羅的に調査を行う為の組織を立ち上げた。

南西諸島の水中文化遺産の調査については、既存のデータが多くあり(宮城他2004・2005、片桐他2005、2007・2009)これらの文献に基づいて遺跡の一覧表を作成した。さらに、遺跡情報の収集にあたり、一般にも平易に水中文化遺産がどんなものなのかを理解いただけるような解説リーフレットを印刷し、普及用の資料とした。

調査の体制は主に現地において実際に潜水等を行う片桐千亜紀を中心とする「遺跡調査・潜水調査班」と古文書や伝承などを含めた広く文献記録などより水中文化遺産を調査する「文献班」とに分け作業を実施した。また、これに加えて、活用や保存及び映像記録化などを行うことを目的に「企画班」を設け全体を総理するとともに。映像記録については沖縄映像センターに委託し、適宜調査に同行をお願いして水中文化遺産の記録化を行った。

なお、南西諸島全体の水中文化遺産の調査や情報について各研究班で意見交換を行うとともに、これまでの調査および今後の調査計画と調査方針を確認するための全体研究会議を、沖縄で1回、鹿児島で1回実施した。

参考文献

小川光彦2009
「海域アジアの碇石航路誌」『モノから見た海域アジア史』九州大学出版会pp.1-37

宮城弘樹・片桐千亜紀・新垣力・比嘉尚輝2004 
「南西諸島における沈没船発見の可能性とその基礎的調査−海洋採集遺物からみた海上交通−」『沖縄埋文研究2』沖縄県立埋蔵文化財センター

宮城弘樹・片桐千亜紀・比嘉尚輝・崎原恒寿2005
「南西諸島における沈没船発見の可能性とその基礎的調査(Ⅱ)−海洋採集遺物からみた海上交通−」『沖縄埋文研究3』沖縄県立埋蔵文化財センター

片桐千亜紀・比嘉尚輝・崎原恒久2005
「本部町瀬底島アンチ浜海底発見の碇石」『沖縄埋文研究3』沖縄県立埋蔵文化財センター

片桐千亜紀(編)2007
『沿岸地域遺跡分布調査概報(Ⅰ)〜沖縄本島及び周辺離島編〜』沖縄県立埋蔵文化財センター

片桐千亜紀(編)2009
『沿岸地域遺跡分布調査概報(Ⅱ)〜宮古・八重山諸島編〜』沖縄県立埋蔵文化財センター